やばい仕事。
「今月の21日が何の日か知ってる」と、チヅルが云った。
「耳の日とか包丁の日とか、どうぜ、くだらねぇやつだろう」と、アライが云った。
アライは、チヅルを連れて大井町に来ていた。チヅルに無理矢理雇わされたのだったが、意外と重宝するので最近は助手に使っていた。
クライアントの受けもいいし、仕事も早い。
「マーティーがやってくる日よ」と、チヅルが云った。
「誰だい、それ」
「バック・トゥ・ザ・フューチャー観てないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
ただ、チヅルは口が悪い。
「昔、観たよ。1955年にタイムスリップするやつ。ちょっと、まって」
アライはそう云うと、タバコをポケットから出して火をつけた。
「ここだよ」と、アライが云った。
ツタが鬱蒼と絡んでいる喫茶店だった。かろうじて入り口が刈り取られて、出入りができるくらいのツタだ。店名も蔦谷だった。
「いまから、俺は中で男と会う。話しはすぐすむ。ほんの10分くらいだろう。男が出てきたら、ヤツの写真を撮ってくれ。それだけでいい」
「やばい仕事?」と、チヅルは興味深そうに訊いた。
「保険の調査資料だよ。犯罪じゃないし、危険な仕事でもない」
そう云うと、アライは携帯灰皿でタバコを消して、店に向かった。
「うまく撮れたかい?」と、アライはチヅルに訊いた。
「ごめん、撮れなかった。カメラがうまく作動しなくて。でも、こんな男でしょう?」
そう云うと、チヅルは紙に男の似顔絵を描いた。そっくりだった。
「伊達に画家じゃないんだな。でも、写真じゃないと、だめなんだよ」と、アライは残念そうに云った。
「へへ、本当は撮ったんだ」と、チヅルはカメラの画像を自慢げにアライに見せた。
似顔絵そっくりの男が写っていた。
「こんな写真役立つの?」と、チヅルが訊いた。
「まぁね。そうだな、寿司でもつまもう」
『らんまん』の看板が見えた。さかなとワインと天ぷらと書いてある。
「寿司屋なの? 天ぷら屋なの?」
「江戸時代からの伝統で、スタンディング寿司屋なんだ」
「立ち飲みかよ。しけてんなぁ」
そう云いながら店に入ると、客が一斉にチヅルを見た。おっ、とチヅルが一瞬ひるんだが、気にせずカウンターについた。
「オヤジ、いつもの」と、チヅルが云った。
「お嬢さん、初めての店ではいつものはないよ」と、店員が云った。
動揺しているらしい。可愛らしいところもあるようだ。と、アライは思った。
「生ふたつ」と、アライが代わりに云った。
「ウニの天ぷらがあるよ」と、チヅルが云った。
「海苔でウニを巻いて揚げるんだよ、お嬢さん」と、店員は云った。
「アライってさぁ、変な仕事してるよな」と、チヅルが云った。
「今日の仕事のこと? あれは、あの男の写真をこっそり撮るのが目的なんだ。何に使われるかは知らない。一応、保険の調査ってことになってるが」
アライはビールを飲んで、タバコに火をつけた。チヅルが煙そうに、手でパタパタと動かす。
天ぷらが来た。海苔で黒く巻いてあるのがウニのようだった。ウニと海苔のコンビが絶妙だ。ビールに合う。
「マーティーとドクが、21日にやってくるんだよ。あたしたちの時代に」
「さっきの続きかよ」
「映画では、クルマは空を飛んでるし、みんな未来っぽい服着て歩いてるんだけど、あたしもアライも代わり映えしないね」
「未来は、概ね、分からない」
「そうね。オオムネ」
「昨日、オクムラから手紙が届いた。500ドルの小切手と一緒に」
「鍵? なんでドル?」
「コインロッカーの中見を預かってくれと書いてあった」
「やばそーね。ワクワクする」
「勝手にワクワクしないでくれ。どうしようか迷ってるんだ」
「迷っている風には見えないわ」
チヅルは、そういうと鞄のポケットから鍵を出した。
「持って歩いてたのか」と、アライは驚いていった。
なくしたらどうする気なんだ。
「今日、必要になるような気がしてたんだ。勘よ。今からコインロッカーに行こうよ。実は、何が飛び出すか、想像して眠れなくなってたんだ」
どうせ、ろくでもないものに決まっている。と、アライは思っていた。
鞄は開けないで、ただ、保管していよう。アライは、鍵を手のひらでクルクルと転がしながら、そう考えていた。
パンドラの箱は、開けない方がいいだろう。
<取材 ジュンイチ@八木商店 記事 紙本櫻士@コピーライター>
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
らんまん
住所 東京都品川区東大井5ー3ー1
電話 03ー5479ー0558
交通 JR京浜東北線大井町駅東口から徒歩1分
営業 17時から23時
定休日 日曜日
ひとり3千円くらいでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ええ体してるやん。せんべろ隊に入らへんか?」
年齢・経験不問。お酒が飲めなくても安心して活動できます。
【全国で活躍するせんべろ隊員たち】
大阪せんべろ隊長 紙本櫻士@コピーライター
隊員 サナエ@元女優 みーやん@ギタリスト エマ@野菜ソムリエ c@ab なるみ@おかえり
かおりん@シャンボール ハラタク@じもてぃ ホソカネーゼ@らふぃね
沙也加@すくもー
東京せんべろ隊長 にしやん@上々颱風
隊員 ひろみ@デザイナー
下町せんべろ隊長 ジュンイチ@八木商店
隊員 アラピー@キャンプ命
土浦せんべろ隊長 ススム@ミック
掛川せんべろ隊長 川人拓也@伝える人
会津せんべろ隊長 吉川@ジュニエコ100開催地だ!
浦和せんべろ隊長 かおりん@もつ命
隊員 サヨコ@ピアノ命 まゆゆ@ピンク命 弓子@キャベツ千切り
全米せんべろ隊長 としゆき@カマス・ワシントン
盛岡せんべろ隊長 アキ@盛岡美人
土佐せんべろ隊長 エツコ@パラダイス
※行け! って感じのせんべろモデルはmaiちゃんです。感謝!!!
撮影 田原慎一
「今月の21日が何の日か知ってる」と、チヅルが云った。
「耳の日とか包丁の日とか、どうぜ、くだらねぇやつだろう」と、アライが云った。
アライは、チヅルを連れて大井町に来ていた。チヅルに無理矢理雇わされたのだったが、意外と重宝するので最近は助手に使っていた。
クライアントの受けもいいし、仕事も早い。
「マーティーがやってくる日よ」と、チヅルが云った。
「誰だい、それ」
「バック・トゥ・ザ・フューチャー観てないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
ただ、チヅルは口が悪い。
「昔、観たよ。1955年にタイムスリップするやつ。ちょっと、まって」
アライはそう云うと、タバコをポケットから出して火をつけた。
「ここだよ」と、アライが云った。
ツタが鬱蒼と絡んでいる喫茶店だった。かろうじて入り口が刈り取られて、出入りができるくらいのツタだ。店名も蔦谷だった。
「いまから、俺は中で男と会う。話しはすぐすむ。ほんの10分くらいだろう。男が出てきたら、ヤツの写真を撮ってくれ。それだけでいい」
「やばい仕事?」と、チヅルは興味深そうに訊いた。
「保険の調査資料だよ。犯罪じゃないし、危険な仕事でもない」
そう云うと、アライは携帯灰皿でタバコを消して、店に向かった。
「うまく撮れたかい?」と、アライはチヅルに訊いた。
「ごめん、撮れなかった。カメラがうまく作動しなくて。でも、こんな男でしょう?」
そう云うと、チヅルは紙に男の似顔絵を描いた。そっくりだった。
「伊達に画家じゃないんだな。でも、写真じゃないと、だめなんだよ」と、アライは残念そうに云った。
「へへ、本当は撮ったんだ」と、チヅルはカメラの画像を自慢げにアライに見せた。
似顔絵そっくりの男が写っていた。
「こんな写真役立つの?」と、チヅルが訊いた。
「まぁね。そうだな、寿司でもつまもう」
『らんまん』の看板が見えた。さかなとワインと天ぷらと書いてある。
「寿司屋なの? 天ぷら屋なの?」
「江戸時代からの伝統で、スタンディング寿司屋なんだ」
「立ち飲みかよ。しけてんなぁ」
そう云いながら店に入ると、客が一斉にチヅルを見た。おっ、とチヅルが一瞬ひるんだが、気にせずカウンターについた。
「オヤジ、いつもの」と、チヅルが云った。
「お嬢さん、初めての店ではいつものはないよ」と、店員が云った。
動揺しているらしい。可愛らしいところもあるようだ。と、アライは思った。
「生ふたつ」と、アライが代わりに云った。
「ウニの天ぷらがあるよ」と、チヅルが云った。
「海苔でウニを巻いて揚げるんだよ、お嬢さん」と、店員は云った。
「アライってさぁ、変な仕事してるよな」と、チヅルが云った。
「今日の仕事のこと? あれは、あの男の写真をこっそり撮るのが目的なんだ。何に使われるかは知らない。一応、保険の調査ってことになってるが」
アライはビールを飲んで、タバコに火をつけた。チヅルが煙そうに、手でパタパタと動かす。
天ぷらが来た。海苔で黒く巻いてあるのがウニのようだった。ウニと海苔のコンビが絶妙だ。ビールに合う。
「マーティーとドクが、21日にやってくるんだよ。あたしたちの時代に」
「さっきの続きかよ」
「映画では、クルマは空を飛んでるし、みんな未来っぽい服着て歩いてるんだけど、あたしもアライも代わり映えしないね」
「未来は、概ね、分からない」
「そうね。オオムネ」
「昨日、オクムラから手紙が届いた。500ドルの小切手と一緒に」
「鍵? なんでドル?」
「コインロッカーの中見を預かってくれと書いてあった」
「やばそーね。ワクワクする」
「勝手にワクワクしないでくれ。どうしようか迷ってるんだ」
「迷っている風には見えないわ」
チヅルは、そういうと鞄のポケットから鍵を出した。
「持って歩いてたのか」と、アライは驚いていった。
なくしたらどうする気なんだ。
「今日、必要になるような気がしてたんだ。勘よ。今からコインロッカーに行こうよ。実は、何が飛び出すか、想像して眠れなくなってたんだ」
どうせ、ろくでもないものに決まっている。と、アライは思っていた。
鞄は開けないで、ただ、保管していよう。アライは、鍵を手のひらでクルクルと転がしながら、そう考えていた。
パンドラの箱は、開けない方がいいだろう。
<取材 ジュンイチ@八木商店 記事 紙本櫻士@コピーライター>
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らんまん
住所 東京都品川区東大井5ー3ー1
電話 03ー5479ー0558
交通 JR京浜東北線大井町駅東口から徒歩1分
営業 17時から23時
定休日 日曜日
ひとり3千円くらいでした。
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「ええ体してるやん。せんべろ隊に入らへんか?」
年齢・経験不問。お酒が飲めなくても安心して活動できます。
【全国で活躍するせんべろ隊員たち】
大阪せんべろ隊長 紙本櫻士@コピーライター
隊員 サナエ@元女優 みーやん@ギタリスト エマ@野菜ソムリエ c@ab なるみ@おかえり
かおりん@シャンボール ハラタク@じもてぃ ホソカネーゼ@らふぃね
沙也加@すくもー
東京せんべろ隊長 にしやん@上々颱風
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下町せんべろ隊長 ジュンイチ@八木商店
隊員 アラピー@キャンプ命
土浦せんべろ隊長 ススム@ミック
掛川せんべろ隊長 川人拓也@伝える人
会津せんべろ隊長 吉川@ジュニエコ100開催地だ!
浦和せんべろ隊長 かおりん@もつ命
隊員 サヨコ@ピアノ命 まゆゆ@ピンク命 弓子@キャベツ千切り
全米せんべろ隊長 としゆき@カマス・ワシントン
盛岡せんべろ隊長 アキ@盛岡美人
土佐せんべろ隊長 エツコ@パラダイス
※行け! って感じのせんべろモデルはmaiちゃんです。感謝!!!
撮影 田原慎一