行け! せんべろ探検隊。

千円でべろべろに酔える店を彷徨う、せんべろ探検隊ストーリーです。探検隊だから、時には、危険なまんべろも。いざ、せんべろ劇場へ! まぐまぐで、メールマガジンを発行してます。ほぼ週末に人気記事を発送してます。

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東京下町ハードボイルド

両国『ゆきだるま 両郷部屋』(東京)久しぶりのジンギスカン。

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 アライが港署に引っ張られたのは、大晦日の夕方だった。
 ノックの音がして、探偵事務所の扉を開けるとお馴染みの身分証明書をかざし、男たちが部屋に入ってきた。白髪交じりの年長の男が先に入り、アライの顔を凝視した。
 若い刑事は、ドアの前に立っている。まぁ、逃げられないようにということだろう。

「今日もお仕事ですか?」と、年長の男が慇懃無礼な口調で云った。
「警察には、大晦日はないみたいだな」
「悪いやつが多くてね」と、白髪の男が云うと、ドアの前に立っている背の高い刑事が薄ら笑いを浮かべた(ように見えた)。それは自嘲気味の笑いなのかもしれない。
「オクムラカオリが、殺されたのは知っていますね」
「新聞で読んだよ。気の毒なことだ」
「オクムラが、外国で殺されたことは?」
「そいつは、知らない」
 おそらくアルゼンチンで逃げられなかったのだろう。まったく、気の毒な元夫婦だ。
「そういう態度ね」
 白髪の刑事が目配せすると、若い刑事がアライのベルトを後ろから右手で握った。
「任意だろう」と、アライが云うと
「ほう、面白いこと云うじゃないか」と、白髪の刑事がアライのレバーにいっぱつ入れた。どこが急所かを知り抜いた狡猾なパンチだ。
 こういう権力を持ったヤカラには、抵抗はしないほうがいい。経験ということだった。

 港署の取調室にはグレーの事務机がひとつと、安っぽいパイプ椅子が二つ並べてあった。アライは、奥の椅子に座って待つように云われた。座ると、ギシギシと嫌な音がする椅子だ。窓もない息苦しい部屋だった。
 暫くすると刑事がひとり入って来た。二人じゃないところを見ると、任意同行は本当らしい。
 刑事は机に座って、アライの向かいに座った。
「大晦日にご足労だね」と、刑事が云った。
「お仲間に、いっぱつ入れられたよ」
 アライは、お腹をさすりながら云った。
 まだ、レバーが傷んでいた。アライにいっぱつ入れた白髪の男は、昔ながらの古い刑事だろう。人の弱みや、証拠が残らない痛めつけ方に精通している。だけどそんな刑事は絶滅はしない。必要だからだ。
「アライさんですね。張と云います。そんな報告は聞いてませんが、伊東くんは何か勘違いでもしたのかな」
 体格のいい年配の張刑事は、とぼけたことを云った。ネクタイの趣味もいい。腕に機械式のエポスをしていた。課長くらいだろうか。
「話すことはないよ。帰らせてくれ」
「なら、任意を重要参考人としていてもらおう」
 ドアが開いて、先ほどの若い刑事が入って来た。黙って、ドアの近くに立っている。
「訊きたいことが山ほどあるんでね」と、さっきとは違う凄みのある口調で張刑事が云った。
「俺は、何も関わっちゃいないぜ」
「奥さんが殺された日だよ。おまえとオクムラが何をしていたかじっくり訊きたい」
 そう云うと、張刑事は部屋を出て行った。

 そこからは若い刑事と交代だった。
 それから刑事が代わる代わる質問をくりかえした。表情が何もないんじゃないかと、思われる刑事もいた。時には暴力的な刑事も。
 刑事とアライが座っている事務机は、刑事の側には足を入れる事ができるが、アライの側は、スチールの板があって足を入れる事ができないようになっていた。膝があたる二カ所の塗装が剥げているのは、同じように何時間もここで取り締まりを受けたヤツらがいるからだろう。それを見てアライはうんざりした。
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 帰されたのは、年が明けて5日のことだ。
 連日、窓のない部屋での尋問は気が滅入ったが、ある日、鉄格子の窓がある部屋に通された。
 その日は、お茶も出て、若い刑事とほぼ雑談だった。で、突然「帰っていい」と、告げられ港署から追い出された。
 適正な取り調べをした警察のアリバイ作りだろう。よくあることだ。
 帰ると、事務所とマンションに家捜しをした形跡があった。ヤツラは家捜しが重要だったのかもしれない。
 俺は泳がされてる。
 とりあえずシャワーを浴びた。
 警察の飯は、いわゆる臭い飯ではないが(ヨウグルトとかオヤツが付く)、臭い飯というのが似合う。どこか臭いんだ。
 腹ごなしに両国にあるジンギスカンでビールを飲もう。と、馴染みの飲み屋に顔を出すことにした。風が冷たい。夜空に月がひとつでていた。
 
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「よう」と、店主に挨拶をして中に入ると、ジンギスカンが焼ける匂いが漂っていた。お腹がぐぅと反応する。
 アライはビールと肉を注文した。
「ひどい顔だな」と、店主が云う。
「そうか」
 さっき鏡で髭を剃るときは、そんな風には見えなかったが、確かに俺はひどく疲れていたんだと思う。
 店主は、自分のビールを注ぎアライのテーブルに座った。
 とにかく乾杯だ。で、ぐっと、半分以上を飲んだ。旨い。
「精をつけないとな」
 サービスだ、と云うと、つけ麺を店主が追加した。
「明けましておめでとう」
 ああ、正月だったな。とアライは思った。
 店主に携帯電話を借りて、チヅルに連絡を入れた。生憎、留守電になっていた。
 当分、事務所には来るな、と伝言を残した。
 アライは、肉を熱くなった鉄板に載せ、ビールを飲んだ。
<取材 アラピー@キャンプ命 記事 紙本櫻士@コピーライター>
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ゆきだるま 両国部屋
住所 東京都墨田区両国3ー24ー1 尾崎ビル3F
電話 03ー6751ー9929
交通 JR両国駅東口より徒歩1分
営業 17時から23時20分(火曜日から日曜日)
定休日 月曜日
ひとり3000円くらいです。ビールにジンギスカンが旨い。
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「ええ体してるやん。せんべろ隊に入らへんか?」
年齢・経験不問。お酒が飲めなくても安心して活動できます。
【全国で活躍するせんべろ隊員たち】
大阪せんべろ隊長 紙本櫻士@コピーライター
      隊員 サナエ@女優 みーやん@ギタリスト エマ@野菜ソムリエ c@ab なるみ@おかえり
         かおりん@シャンボール ハラタク@じもてぃ ホソカネーゼ@らふぃね
         沙也加@すくもー 乾@八尾YEG トモコ@吹田YEG もーちゃん@トラベラー
         オーシタ@スリランカ アサミ@セレブ
東京せんべろ隊長 にしやん@上々颱風
      隊員 ひろみ@デザイナー ナホ@バイオリニスト
下町せんべろ隊長 ジュンイチ@八木商店
      隊員 アラピー@キャンプ命
土浦せんべろ隊長 ススム@ミック
掛川せんべろ隊長 川人拓也@伝える人
会津せんべろ隊長 吉川@ジュニエコ100開催地だ! ユウシ@会津YEG
浦和せんべろ隊長 かおりん@もつ命
      隊員 サヨコ@ピアノ命 まゆゆ@ピンク命 弓子@キャベツ千切り
全米せんべろ隊長 としゆき@カマス・ワシントン
盛岡せんべろ隊長 アキ@盛岡美人
土佐せんべろ隊長 エツコ@パラダイス

※行け! って感じのせんべろモデルはmaiちゃんです。感謝!!!
撮影 田原慎一

秋葉原『金子屋』(東京)ガード下のホッピー。

アルゼンチンからの手紙。12355083_933182590107606_1909888720_n

 君がこの手紙を読んでいると云うことは、俺はこの世にいないのだろう。
 俺はブエイノスアイレスにあるホテルでこれを書いている。ロス・アンデスという名のホテル201号室だ。
 そんなことはどうでもいい。すまん、気が動転している。
 クルマが3台が部屋の下に止まっている。武装した男たちがこの部屋を目指している。窓からも逃げられない。文字が震えているのは、そのせいなんだ。

 ひとつ、いいこともある。ホテルのボーイに、この手紙を渡せたことだ。丁度、ビールを注文してたんでね。
 ひとつくらい、ヤツラの鼻を明かしたい。それが最後の依頼だよ。
 ボーイが、この手紙を地球の裏側まで運んでくれたら、と願う。可能性はきわめて低いかもしれないが。

 奥村恭也 拝
 
 SDカードが同封されていた。
 それと、高額の小切手も。
 アライの事務所のPCで、カードを読み込もうとしたが反応がなかった。
 アライは、チヅルに奥村から預かっている鞄を持って秋葉原の『金子屋』に来るようメールで告げた。
 チヅルから、すぐに行く。と返事が来た。
 鍵はおろらく鞄にあると思うが、事務所に持ってくるのは危険だった。それとなく『ヤツラ』に監視されている。
「ヤツラの鼻を明かしたい」とは、何かは分からない。ヤバイ情報か、金か・・・。 どちらにしても、面倒なことだが・・・。
 アライは、シガレットケースからタバコを出して火をつけた。タバコが燃える微かな音がした。
 やれやれ、どうしたものか。タバコをもみ消し、シガレットケースの裏蓋にSDカードを隠すと、ケースを閉じた。
 秋葉原まで、30分くらいだ。
 とにかく、鞄を開けることにしよう。
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「中を見たくて、うずうずしてたんだ」
 金子屋でビールを飲みながら待っていると、アライの顔を見るなりチヅルが云った。薄いオレンジ色のロングコートにブラックジーンズだ。常連客のサラリーマンが数人いるだけで、店は空いていた。
 チヅルは、預けていた茶革のブリーフケースを右側の席に置いた。
「なんで開ける気になったの?」
 あたしもビール。と、店員にチヅルが云った。
「事情が変わった」
「どんな風に?」
 アライは黙って、ビールを飲んだ。
「腹は空いているかい」
「そうね。だいぶん」
 ビールが来た。煮込み豆腐とつくねを注文する。
「ここは、カレーが旨いんだよ」
 チヅルは鞄をアライに渡した。
「鍵が掛かってるよ」と、チヅルが云った。
 開けようとしたらしい。
「誰かに、開けられないようにね」
 アライはそう云うと、細い針金を取り出し鞄の鍵を解除した。
「なんか、悪いことをいっぱいしてそうね」
 チヅルはアライの顔をまじまじと見て云った。
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 小型のPCが入っていた。
 SDカードをこいつに読み込ませるといい。ということか・・・。
 店員に電源を借りたいと告げ、パワー・スイッチを押した。
「どうなの?」
 アライはシガレットケースからSDカードを取り出し、立ち上がったPCにカードを読み込ませた。

 パスワード:

 画面の中央で、コロンが点滅していた。

「パスがいる」
「入力してよ」
「生憎、分からない」
「意味ないじゃない。間抜けねぇ」
 チヅルはビールを飲み干すと、ホッピーを注文した。
「カレーも食べようかな」と、チヅルが云った。
 奥村は、何かのヒントは残していると思う。それが何かが分からなかった。
 試しに、オクムラカオリと入れてみる。
 反応はない。思いつく文字列を入れてみるが、何も起こらなかった。
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 ツクネが来た。腹を空かせたチヅルが、早速、パクリと食べた。
 美味しい!
「何か言ってなかった?」
「ヤツラの鼻を明かしたいってね」
「何、ソレ」
「奥村からの最後の依頼なんだ。ギャラの小切手が同封されてたからね」
 アライはそう云うと、ビールを飲み干した。
<取材 ジュンイチ@八木商店 記事 紙本櫻士@コピーライター>
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金子屋
住所 東京都千代田区神田佐久間町2ー11 AOIビルF1
電話 03ー5829ー6653
交通 JR秋葉原駅昭和通り口より徒歩3分
   日比谷線秋葉原駅より徒歩3分
営業 16時から23時30分
定休日 日曜日
ひとり2千円くらいでした。
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撮影 田原慎一
 

ブエイノスアイレス『トルトーニ』(アルゼンチン)タンゴの後は。

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 アルゼンチンに来て、1ヶ月経った。
 オクムラは、一日中ホテルにこもってビールを飲んで過ごしていた。インターネットで日本の様子を、ビールを飲みながら眺める毎日だ。ビールを飲んでるか、インターネットを見ているか、その両方か、寝ているか、だ。
 遠い異国から眺める日本は、おとぎ話の国のように見えた。妻だったカオリの死亡記事を読んでも、悲しくない。死因もどうでもいい。もう、俺には関係ない女だ。
 人でなしだな。と、オクムラはぼんやりと思った。
 カオリの親父がオクムラのことを血眼になって探しているのは、分かっていた。
「金なんか集めてどうするんだ」と、オクムラはホテルに飾ってある風景画に怒鳴った。
 誰に怒鳴っているのかも分からずに。

 部屋を出て、ホテルのフロントの前を通ると、
「今晩は」と、ドアボーイのロベルトが英語で云った。
「部屋をかたづけてくれ。それと、ビールを」
「かしこまりました」
 そう云うと、ロベルトはホテルのフロントに歩いて行った。気取った癖のある歩き方だ。なんだか可笑しい。
 カフェ『トルトーニ』で、バイオリンを弾くから聴きに来ないか、とナホに誘われていた。ナホは、オクムラが雇ったアルゼンチンのガイドだった。もう、5年以上ここに滞在しているという。日本人らしいが、素性は分からない。
 
 日本語で話したい気分だった。
 古い石畳の街を歩いていると、自分が何者なのかも分からなる。
「金なんか集めてどうする?」
 胸ポケットにあるUSBを手で押さえながら、オクムラは呟いていた。
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 トルトーニに着くと、ナホが手を振って「こっち、こっち」と、云った。
 胸の空いたグリーンのドレスを着て、バイオリンを足下に置いている。
「酔ってる?」と、ナホが訊いた。
「いつもね」
「チョロスとコーヒーを飲むといいわ。お酒は、私のタンゴの後で」
「旨い店を案内してくれ」
「ずっとホテル住まいをする気なの?」
「何も決めてない」
「お金持ちなのね」
 ナホは肩をすくめて云った。
 オクムラは黙ってコーヒーを飲んでいた。
「治安が悪いとこだから、金持ちの日本人が酔って歩いていると危険なの」
「だから、ナホがいる」
「ウルグアイに行ってみない? 海辺で飲むビールは、美味しいわよ」
「どうせ、やることもないんだ」
 行くよ。と、オクムラは云った。
 日本語が心地よかった。
 
ナホのバイオリンは素晴らしいものだった。趣味程度だろう、とオクムラは勝手に思っていたが、そんなものじゃない。
 ブエイノスアイレスから、彼女が離れられない理由が少し分かった気がした。ここでしか、できないタンゴがあるんだと思う。
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 演奏が終わると、店を出てナホ行きつけの老舗バーに行った。歩いてすぐのところにある。壁にびっしりと油絵が飾ってある。幽霊が出そうな古いバーだ。
 店内は地元の人で賑わっていた。観光客は、いないようだ。
「肉が安いでしょう?」
「ビールも安い。リッター200円しないからな」
「ガソリンじゃないんだから」と、ナホは笑った。
 ナホが選んでくれたソーセージとビールが来た。ひとつは血のソーセージ、ひとつは普通のやつだ。食べてみると、ビールによく合う。
「わたし、血のソーセージが苦手なの」
「わりと旨いよ。ビールお代わりしてくれ」
 ナホは店員を呼んで、ビールを二つ頼んだ。
 店員が、スペイン語でオクムラに話しかけた。
「なんて云ってるんだ?」
「恋人か? って」
「親子だと云ってくれ」
 ナホが何か店員に云うと、ウィンクをして戻って云った。
「私の恋人には、ビールを一杯サービスするって」
 恋人と云ったらしい。
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「ウルグアイ行く?」
「すぐにでも」
 ウルグアイで、当分暮らすのもいいか。どうせ、死ぬまで暇つぶしなんだ。
「金なんか、集めてどうする?」と、オクムラが呟いた。
「どうしたの?」
「おまじないだ」
「じゃー、金なんか集めてどうする! に乾杯」
 オクムラは、元気なナホにつられ、苦笑いしながら乾杯をしていた。
<取材 ナホ@バイオリニスト 記事 紙本櫻士@コピーライター>
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『Cafe Tortoni』
住所 五月通り825
基本、アルゼンチンはせんべろだらけです。
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土佐せんべろ隊長 エツコ@パラダイス

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撮影 田原慎一

錦糸町『丸源』(東京)立ち食い蕎麦屋で、せんべろ。

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 山本カオリが殺害された。
 港署の張刑事が現場に着くと、白金にあるお屋敷は封鎖され、警備の警察官が立っていた。パトカーが数台停めてあり、関係者意外入れないように、黄色いテープが張り巡らされている。
「鑑識は?」と、張が部下の竹下に訊いた。
「10分後に到着します。ホトケさん見ますか?」
「いや、いい」

 張は庭に出た。手入れの行き届いた日本庭園だ。殺された女の父親は、薬品会社のオーナー社長だ。都内の一等地に日本庭園を造るとは、豪儀なもんだな、と庭を眺めながら張は思った。塀は高く、監視カメラもある。一見して、進入するのは難しそうに思えた。
 池に近づくと、鯉がエサを求めて寄ってきた。張は集まってくる鯉を見て、金持ちに群がってくる人たちを思い浮かべていた。自分も含めて・・・。
 竹下が駆け寄ってきた。髪を7、3に分けた若い刑事だ。配属されて、2ヶ月も立っていない男だ。
「鑑識は?」
「すみませんまだです」
「遅いな」
 張はタバコを吸いたかったが、我慢をしていた。昔は、現場でも吸えたものだが・・・。
「被害者は、山本カオリ。25歳。最近、離婚して奥村から旧姓の山本に戻しています」
「ちょっとは慣れたか?」
「まだ、何も分からなくて、先輩に教わっています」
「前の旦那は?」
「連絡がつきません」
「屋敷には誰がいた」
「山本カオリ、ひとりと思われます」
「広い屋敷に、ひとりか」
 ひとりになりたかったのかもしれないな。と、張は思った。秘密で誰かに会うとかだ。
「誰かと部屋で会っていた形跡は認められます」
「なるほど」と、張は云ってメモっていた手帳を閉じだ。
 胸ポケットからメールが届くバイブの音がした。
 携帯を開けメールの発信先を見ると、張の顔色が変わった。
「よろしく頼む」
 携帯をポケットに仕舞うと、張は慌てて現場から立ち去った。
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 平日の午後遅く、アライは丸源で蕎麦を食べていた。
 隣では、スーツを着たサラリーマンがスポーツ新聞を読みながらビールを飲んでいる。営業の途中なのかもしれない。丸源は、立ち食い蕎麦屋だけど、立ち飲みの客がメインの店だ。さっと飲むアライのお気に入りの店だった。
 アライはビールを追加した。
 今日も、適度に常連でカウンターが埋まっていた。どうも蕎麦とビールだけでは、物足りない。どうしたものかと思い、チラッと新聞を横目で見ると『美人令嬢殺害』というタイトルの下に、見覚えのある女が写っていた。
 南署の張刑事が告げに来た事件だ。と、咄嗟に思った。
「悪い、その新聞見せてくれないか?」と、アライはサラリーマンに云った。
 サラリーマンは、黙ってスッと新聞を畳んでアライに渡してくれた。
 アライが、食い入るように記事を読んでいると、
「知り合いかい?」と、カウンターで焼酎のお湯割りを飲んでるオヤジが尋ねた。 くたびれた黒っぽいシャツを着た腹の出たオヤジだ。
「いや。美人だなと思ってね」
 アライがはぐらかすと、
「元旦那が怪しいっすよね。逃げてるんでしょう」と、若い学生風の男が云った。
「重要参考人らしいね」と、サラリーマンがビールを飲んで云った。
 意外に話題になっている事件らしい。
 写真のカオリは笑っている。どこかのパーティーの写真のように思えた。スポーツ新聞が部数を伸ばすために使いそうな写真だった。
「金持ちなのに、なんで殺さたんだろう」と、学生が云った。
 アライは焼き鳥を頼む。それとお代わりのビールも。
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「学生さん金持ちだからだよ。私なんか、金がなくて死にそうだけど、そんなトラブルには巻き込まれないよ。気楽なもんさ」と、お湯割りオヤジが云った。
「元旦那、俺見たことあるよ。新宿でホストのバイトやってたオクムラだ」と、学生が云った。
「一緒に仕事してたの?」と、アライが訊いた。
「ああ、俺は勤まらなくてすぐに辞めちゃったけどね」
「この奥さんは見覚えある?」
「俺、すぐ辞めたから」
「兄さん、まさか、警察じゃねぇだろうな」と、オヤジが云った。
「ただの野次馬だよ」
「いい仕事見つけたとか云ってさ。奥村は俺と一緒に辞めたんだ」と、学生が云った。
 その仕事が、金持ちの奥さんなのかな、とアライは思った。
「奥村はいまどこにいると思う?」と、アライがクイズのように訊いてみた。
「アルゼンチン」と、学生が云った。
「なんで?」
「地球の裏側に儲け話があるって自慢してたからさ。嘘っぽいけど」と、学生が云った。
 アルゼンチンか・・・。ことによると、当たっているかもしれない。オクムラの気配が、どうもしないからだ。
<取材 アライ@キャンプ命 記事 紙本櫻士@コピーライター>
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丸源
住所 東京都墨田区江東橋3ー12ー1
電話 03ー3632ー4996
交通 錦糸町駅から徒歩2分
営業 11時から15時 17時から22時(月から金)
   11時から20時(土・日)
せんべろです。
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錦糸町『太田屋』(東京)下町のくじら屋。

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 午後9時、週末の新宿駅は人、ヒトでごった返していた。
 アライは、チヅルを連れオクムラが指定するコインロッカーを探していた。西口からは離れた場所にあるのロッカーだ。
「コインロッカーってさ。二、三日しか預けられないんじゃない」と、チヅルが訊いた。
「前払いすれば何年でも預けていられるコインロッカーというより、小さなトランクルームがあるんだよ」
「何が出てくるかワクワクするね」
「だから勝手に、ワクワクしないでくれ」
 
 都市開発に取り残されたようなゴミゴミとした一画に『塚本コインロッカー』と白地に赤いペンキで書かれた看板を掲げているビルが見えた。赤い文字が薄くなっていて、ところどころ剥げている。ビルの壁には、地方都市の路線図のような修繕跡が走っていた。
「いい味出してんなぁ。大道具が頑張ってる感じ」と、チヅルが云った。
「芝居や映画じゃねーんだ」と、アライが云った。
「やぶにらみの怖そうなジイサンがやってるんだよ。きっと」
「馬鹿云うなよ」と、アライは呆れていった。
 チヅルは思い込みが激しいから困る。

 塚本コインロッカーは、狭い階段を上がった二階にあった。
 上がると年季の入った木製の扉があった。開けると音がギィっと鳴り、受付があった。
 受付には、ジイサンがひとりパイプ椅子に座って新聞を読んでいた。
 アライが受付に立つと、
「コインロッカーは一階だよ」と、やぶにらみのジイサンが顔を上げて云った。
 使い古したサンダルに、ズボンと白い開襟シャツを着ていた。愛想も悪そうだ。
「ほら」と、チヅルが得意そうに云った。
 アライは、オクムラから預かっている13番と書かれている鍵を見せた。
「ああ、そっちの客かい」と、不機嫌そうに云うと、ゆっくりジイサン立ち上がっり、引き出しから鍵を選んで、受付の後ろにあるドアを開けた。
「後は、勝手にやってくれ」と気怠そうに云い捨て、また、パイプ椅子に腰掛け新聞に目を落とした。

 ずらりとロッカーが並んでいた。天井の蛍光灯がひとつ切れそうになっていてチラチラを点滅している。
「きっと、ここにはろくでもないものが集まってるんだよ」と、チヅルが小声で云った。
「黙ってろ」と、アライも小声で答えた。
 13番のロッカーを見つけて開けると、茶皮のブリーフケースが入っていた。留め金も黄金で奢った高級鞄だ。取り出して手にすると、意外と軽い。とはいえアライにとっては、何が入っているかは、どうでもいいことだった。
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「鯨屋に行こう。馴染みの店なんだ」と、アライが云った。
「鯨? 嬉しい。あたし食べたことないの」と、チヅルが云った。
 アライがよくいく錦糸町の『太田屋』だった。
 新宿よりテリトリーの下町の方が、落ち着く。
 店は適度に混雑していたが、一度は見たことのある客ばかりだった。誰かにつけられてないだろうが、ここなら安心だ。
 チヅルが、ビールふたつと鯨ユッケと鯨かつを頼む。鯨が珍しいのだろう。

 ビールが来た。
「鞄、開けようよ」と、チヅルが云った。
「俺の仕事は、預かるまでだよ」
「馬鹿じゃないの。爆弾が入ってたらどうすんの」
 アライはチヅルを無視してビールを飲んだ。
 チヅルは、チっと舌打ちをした。
「お嬢さんは舌打ちなんかしないもんだ」
「お嬢じゃないから、舌打ちすんだよ」と、チヅルがビールをぐいっと飲んで云った。
「鯨ユッケ食うかい」
「不思議な肉ねぇ。美味しい」と、ひとくち食べてチヅルが云った。
「肉豆腐も頼もう、腹が減ってる」と、アライが云った。
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「開けないから、ちょっと貸してよ」と、チヅルが云った。
 アライはしばらく考えてから、チヅルに鞄を渡した。すると、チヅルは鞄に耳を当てて、両手で鞄を振った。
「爆発しちまうぞ」
「時計の音はしないみたい。カチカチ。何か箱のようなものもあるわ」
 どうも危なっかしい。けど、アライはチヅルに鞄を預けることに決めていた。事務所にあるより安全だからだ。
「中を絶対に見るな。開けるな。それから振るな」と、アライは念を押した。
「へいへい」と、チヅルが面倒くさそうに云った。
 椅子の横に鞄を置いてビールを飲み、鯨カツを食べた。
「パンドラの鞄だから?」
<取材 アラピー@キャンプ命 記事 紙本櫻士@コピーライター>
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太田屋
住所 東京都墨田区緑4ー20ー9
電話 03ー3631ー0501
交通 JR錦糸町駅より徒歩8分
営業 17時から24時
定休日 日・祝
ひとり三千円くらいでした。
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「ええ体してるやん。せんべろ隊に入らへんか?」
年齢・経験不問。お酒が飲めなくても安心して活動できます。
【全国で活躍するせんべろ隊員たち】
大阪せんべろ隊長 紙本櫻士@コピーライター
      隊員 サナエ@元女優 みーやん@ギタリスト エマ@野菜ソムリエ c@ab なるみ@おかえり
         かおりん@シャンボール ハラタク@じもてぃ ホソカネーゼ@らふぃね
         沙也加@すくもー 乾@八尾YEG トモコ@吹田YEG
東京せんべろ隊長 にしやん@上々颱風
      隊員 ひろみ@デザイナー
下町せんべろ隊長 ジュンイチ@八木商店
      隊員 アラピー@キャンプ命
土浦せんべろ隊長 ススム@ミック
掛川せんべろ隊長 川人拓也@伝える人
会津せんべろ隊長 吉川@ジュニエコ100開催地だ! ユウシ@会津YEG
浦和せんべろ隊長 かおりん@もつ命
      隊員 サヨコ@ピアノ命 まゆゆ@ピンク命 弓子@キャベツ千切り
全米せんべろ隊長 としゆき@カマス・ワシントン
盛岡せんべろ隊長 アキ@盛岡美人
土佐せんべろ隊長 エツコ@パラダイス

※行け! って感じのせんべろモデルはmaiちゃんです。感謝!!!
撮影 田原慎一

大井町『らんまん』(東京)ウニの天ぷらを立ち食い寿司で。

やばい仕事。12167497_912015962224269_1124463724_n

「今月の21日が何の日か知ってる」と、チヅルが云った。
「耳の日とか包丁の日とか、どうぜ、くだらねぇやつだろう」と、アライが云った。
 アライは、チヅルを連れて大井町に来ていた。チヅルに無理矢理雇わされたのだったが、意外と重宝するので最近は助手に使っていた。
 クライアントの受けもいいし、仕事も早い。

「マーティーがやってくる日よ」と、チヅルが云った。
「誰だい、それ」
「バック・トゥ・ザ・フューチャー観てないの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
 ただ、チヅルは口が悪い。
「昔、観たよ。1955年にタイムスリップするやつ。ちょっと、まって」
 アライはそう云うと、タバコをポケットから出して火をつけた。
「ここだよ」と、アライが云った。
 ツタが鬱蒼と絡んでいる喫茶店だった。かろうじて入り口が刈り取られて、出入りができるくらいのツタだ。店名も蔦谷だった。
「いまから、俺は中で男と会う。話しはすぐすむ。ほんの10分くらいだろう。男が出てきたら、ヤツの写真を撮ってくれ。それだけでいい」
「やばい仕事?」と、チヅルは興味深そうに訊いた。
「保険の調査資料だよ。犯罪じゃないし、危険な仕事でもない」
 そう云うと、アライは携帯灰皿でタバコを消して、店に向かった。

「うまく撮れたかい?」と、アライはチヅルに訊いた。
「ごめん、撮れなかった。カメラがうまく作動しなくて。でも、こんな男でしょう?」
 そう云うと、チヅルは紙に男の似顔絵を描いた。そっくりだった。
「伊達に画家じゃないんだな。でも、写真じゃないと、だめなんだよ」と、アライは残念そうに云った。
「へへ、本当は撮ったんだ」と、チヅルはカメラの画像を自慢げにアライに見せた。
 似顔絵そっくりの男が写っていた。
「こんな写真役立つの?」と、チヅルが訊いた。
「まぁね。そうだな、寿司でもつまもう」
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 『らんまん』の看板が見えた。さかなとワインと天ぷらと書いてある。
「寿司屋なの? 天ぷら屋なの?」
「江戸時代からの伝統で、スタンディング寿司屋なんだ」
「立ち飲みかよ。しけてんなぁ」
 そう云いながら店に入ると、客が一斉にチヅルを見た。おっ、とチヅルが一瞬ひるんだが、気にせずカウンターについた。

「オヤジ、いつもの」と、チヅルが云った。
「お嬢さん、初めての店ではいつものはないよ」と、店員が云った。
 動揺しているらしい。可愛らしいところもあるようだ。と、アライは思った。
「生ふたつ」と、アライが代わりに云った。
「ウニの天ぷらがあるよ」と、チヅルが云った。
「海苔でウニを巻いて揚げるんだよ、お嬢さん」と、店員は云った。
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「アライってさぁ、変な仕事してるよな」と、チヅルが云った。
「今日の仕事のこと? あれは、あの男の写真をこっそり撮るのが目的なんだ。何に使われるかは知らない。一応、保険の調査ってことになってるが」
 アライはビールを飲んで、タバコに火をつけた。チヅルが煙そうに、手でパタパタと動かす。
 天ぷらが来た。海苔で黒く巻いてあるのがウニのようだった。ウニと海苔のコンビが絶妙だ。ビールに合う。

「マーティーとドクが、21日にやってくるんだよ。あたしたちの時代に」
「さっきの続きかよ」
「映画では、クルマは空を飛んでるし、みんな未来っぽい服着て歩いてるんだけど、あたしもアライも代わり映えしないね」
「未来は、概ね、分からない」
「そうね。オオムネ」
「昨日、オクムラから手紙が届いた。500ドルの小切手と一緒に」
「鍵? なんでドル?」
「コインロッカーの中見を預かってくれと書いてあった」
「やばそーね。ワクワクする」
「勝手にワクワクしないでくれ。どうしようか迷ってるんだ」
「迷っている風には見えないわ」
 チヅルは、そういうと鞄のポケットから鍵を出した。
「持って歩いてたのか」と、アライは驚いていった。
 なくしたらどうする気なんだ。
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「今日、必要になるような気がしてたんだ。勘よ。今からコインロッカーに行こうよ。実は、何が飛び出すか、想像して眠れなくなってたんだ」
 どうせ、ろくでもないものに決まっている。と、アライは思っていた。
 鞄は開けないで、ただ、保管していよう。アライは、鍵を手のひらでクルクルと転がしながら、そう考えていた。

 パンドラの箱は、開けない方がいいだろう。
<取材 ジュンイチ@八木商店 記事 紙本櫻士@コピーライター>
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らんまん
住所 東京都品川区東大井5ー3ー1
電話 03ー5479ー0558
交通 JR京浜東北線大井町駅東口から徒歩1分
営業 17時から23時
定休日 日曜日
ひとり3千円くらいでした。
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撮影 田原慎一

北千住『千両』(東京)昭和50年より同じ値段。

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 北千住の『千両』に着くと、
「ねこちゃん元気?」と、チヅルが云った。
 チヅルが造った招き猫のドアストッパーである。ドアストッパーには大きすぎ、扱いにくい。どこか顔がチヅルに似ていた。

「鍵は、なくしてないだろうな」と、アライが云った。
「当たり前じゃない。持ってると、メシ奢ってもらえるもん」
「いま、持ってる?」
「隠してある」
「なんで」
「わけありの鍵なんでしょう?」
 アライは、黙って、ジッポウでハイライトに火をつけた。

「中落ち、葱とろが、昭和50年から同じ値段って書いてるよ。これって、昔から安いってこと?」
 店の壁に大きく『目玉商品』と張り紙があり、中落ち、葱とろ、350円と書いてった。
「たぶんだけど、いまの時代なら倍の700円ってとこかな。昭和50年頃だと山手線の初乗りが30円だった」
 チヅルは、生ビールをお代わりした。それと、中落ちと葱とろも。
「ずいぶん、詳しいのね」
 もちろんチヅルは生まれていない。遠い、昭和のおとぎ話くらいに思っているのかもしれない。
「国鉄に乗って、学習塾に通ってたからな。俺、中学受験したんだ。落ちたけど」
「ふーん」
 チヅルは、興味がないらしい。ずいぶん昔のことだし、おじさんの昔話にはつきあえないってことだろう。
 中落ちが来た。ひとくち食べるとちゃんと倍の値段の味がした。やるじゃないか、千両。
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「鍵のことなんだけさ」
 チヅルが言いかけたのを遮って、アライが話し始めた。
「感謝してる。黙って、隠し持っといてくれると嬉しい。ギャラも払うよ。わけありの友人が困ってて、預かっているんだ。で、面倒なやつらが欲しがってる。事務所を家捜ししそうな馬鹿どもだ」
「ふーん。面白そうだからいいけど、代わりに私の絵を高く買ってくれると嬉しいな」
「オーケー、事務所の壁に飾ろう」
 取引成立である。
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 三日前、刑事だと名乗る男が事務所を訪ねてきた。身分証明書を見せたから偽刑事じゃない。張という刑事だった。
「こいつを知っているか?」と、張は写真を見せて云った。
 オクムラの写真だった。
「知り合いだが、なにかあったのか?」
「まだ、なにも、元奥さんが亡くなって、姿を消してる。ただ、それだけだ。あんたは、オクムラに雇われた探偵だろう?」
「保険の調査員だ。探偵はやってない」
「どうでも、いい。今日は、俺ひとりできてる。ややこしいことにはしたくないんだ。やつの居所が知りたい。何か言ってなかったか?」
 アライは、いつものようにコーヒーを立てた。
「飲むかい?」
「ありがたいね」
 そう云うと、張はタバコの火をつけた。
「コーヒーには、タバコが必要なんだ」と、張が云った。
 マグカップにたっぷりコーヒーを入れ、アライは張に渡した。
「奥さん、他殺なのか?」
「さぁな、でも、オクムラが姿を消してる。親父さんが激怒しているらしい」
「とにかく、俺は知らない」
「たれ込みがあったんだ」
 鍵のことだった。ギャングたちも必死なんだろう。刑事を使って探りをいれているらしい。
「コーヒー旨かったよ。また来る。面倒を俺たちにかけるな」
 そう云うと、張は部屋を出て行った。
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「オトナの居酒屋って感じ」と、チヅルが云った。
 サカナが旨かった。20代のチヅルには、客層がオトナに見えるのだろう。おじさんばかりなのだ。
「アライのところで雇ってよ」
 チヅルはマールボロメンソールを吸いながら云った。バイト先の居酒屋で配っている派手なライターが、タバコの上に乗っていた。最近、昼のバイトも探していると云っていたのを思い出していた。俺のところは、ごめんである。とても、役立つようにも思えないし・・・。
「そんな余裕はない」
「鍵、捨てるよ」
 やりかねなかった。ここにも面倒なやつがひとり。
 結局、事務所の電話番に雇うことになった。壁の絵が出来上がるまでの限定でだ。
「契約成立!!」
 仕方なく、アライはチヅルと乾杯をした。やれやれ。
<取材 アラピー@キャンプ命 記事 紙本櫻士@コピーライター>
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千両
住所 東京都足立区千住2ー52
電話 03ー3870ー2415
交通 北千住駅北口から徒歩5分
営業 17時から24時
定休日 日・祝
ひとり二千円ちょい。
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「ええ体してるやん。せんべろ隊に入らへんか?」
年齢・経験不問。お酒が飲めなくても安心して活動できます。
【全国で活躍するせんべろ隊員たち】
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         かおりん@シャンボール ハラタク@じもてぃ ホソカネーゼ@らふぃね
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下町せんべろ隊長 ジュンイチ@八木商店
      隊員 アラピー@キャンプ命
土浦せんべろ隊長 ススム@ミック
掛川せんべろ隊長 川人拓也@伝える人
会津せんべろ隊長 吉川@ジュニエコ100開催地だ!
浦和せんべろ隊長 かおりん@もつ命
      隊員 サヨコ@ピアノ命 まゆゆ@ピンク命 弓子@キャベツ千切り
全米せんべろ隊長 としゆき@カマス・ワシントン
盛岡せんべろ隊長 アキ@盛岡美人
土佐せんべろ隊長 エツコ@パラダイス

※行け! って感じのせんべろモデルはmaiちゃんです。感謝!!!
撮影 田原慎一

北千住『徳多和良(とくだわら)』割烹くずれ。

みんな割烹くずれって、呼んでるよ。12077199_906994599393072_561509058_n

「地元、最強の立ち飲み屋に連れて行ってよ」と、チヅルが云った。
 チヅルは、北千住のバーでバイトしているアライのガールフレンドだ。画家になりたいらしく、絵やイラストを描いている。
 突然、アライの事務所に現れて、コーヒーを勝手に入れ長椅子に寝転んで雑誌を読んでいたり、チヅルは外猫のような感じで、アライの事務所に出入りしていた。
「絵は売れた?」とアライが訊くと、
「ゴッホだって、死ぬまで一枚も売れてないよ」と、チヅルが云った。
 売れてないらしい。
 今日は、午後から彼女が電話番をしてくれていた。晩ご飯をイッパイ奢る約束でだ。
「ちょっと待って、電話一本かけたら、店じまいするから」と、アライが云った。
 腕時計を見ると、4時過ぎだ。飲むには早かったが『徳多和良』なら、この時間でもやっている。それに、何より、安くて旨い。
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 すでに、店には行列ができていた。
「どうする?」と、アライが訊くと
「折角だし」と、チヅルがスマホをのぞき込みながら云った。
 しびれを切らしたのか、4人連れが行列を離れてどこかに消え、二人は割とすんなり店に入ることができた。中では、20人くらいが立って飲んでいた。若い女性客も数人いる。
「なんで割烹くずれ? 看板にはくずしってあったよ」と、チヅルが云った。
「割烹屋で働いてたんですよ」と、店主が云った。
「だからネタが旨いんだ」と、アライが云った。
 生ビールを店主に2つ頼む。鯛の刺し身とアスパラも。
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「バリ島に行ってたんだ」と、チヅルが云った。
 まずは乾杯!! 喉が乾いていたから、ビールが旨かった。たちまち、お代わりを頼む。
「軟らかい石があってさ」
「軟らかい石? バリに?」
「簡単に削れる石。暇だったから、その石で招き猫を作ってみたの。その招き猫がいい感じで、ホテルの庭に飾って置いてたのよ。するとさぁ、招き猫の前にお供え物がしてあるんだ。二、三日で、もう、いっぱい」
「そいつ神様になったの?」
「そうね」と、云うとチヅルは二杯目のビールを飲み干しお代わりした。
「あたし招きの猫作るの天才かも、って思って日本で売れないかなと、実は、もう二体作ったんだ。アライ、一番の客になってよ」
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「飾る場所なんかねぇよ」
「ドアストッパーにすればいいじゃん」
 結局、チヅルに押し切られ、仕方なく買うことになった。
「値段は?」と訊くと、
「お布施でいい」と、訳の分からないことを云われる。
「立ち飲みは初めて?」と、アライは訊いた。
「初めてだよ。お嬢だからね」と、チヅルが云った。
 親が何をやっているのか興味はないけど、実家は白金にあるらしい。本当にお嬢なのかもしれない。
「実は、頼みたいことがあるんだ」と、アライが云った。
「いいよ」
「鍵をひとつ預かって欲しい」
「オッケー、次の飲み代にしとく」
 アライは、オクムラから預かった鍵をチヅルに渡した。

 数日後、チヅルからドアストッパーが届いた。
 大きな招き猫だ。
「ろくでもないことは、招かないでくれよ」
 アライはコーヒーを入れながら、その招き猫に云った。
<取材 アライ@キャンプ命 記事 紙本櫻士@コピーライター>
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徳多和良(とくだわら)
住所 東京都足立区千住2ー12
電話 03ー3870ー7824
交通 北千住駅から徒歩7分
営業 16時から21時
定休日 日・月・祝
せんべろ屋です。
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「ええ体してるやん。せんべろ隊に入らへんか?」
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撮影 田原慎一

両国『ニュー鳥正』(東京)こんにちはギャングたち。

ニューがつく、昭和な店で。12032404_901585166600682_283463571_n

 『鳥正』の肉豆腐を食べに行こう。と、アライは思った。
 焼き鳥のタレで煮込んだ豆腐料理で、時々、無性に食べたくなる。丁度、両国界隈の用向きが終わり、そろそろ日暮れ時だった。
「ちょいと、兄さん、寄ってかない」と、キャバ嬢にはとうが立ったオンナに声をかけられた。白いハイヒールと体にぴったりとした花柄のボディコンを着ていた。
 それが、妙に似合うオンナだった。

「すまない。これから友だちと飲むんだよ」
「じゃ、そのお友だちとお寄りよ」
 オンナはそう云うと、店の地図が入った名刺をくれた。『青い城』という店らしい。
「後で寄るかも」と、アライは適当な返事をした。
「お待ちしてます。あたしはレイコだよ」と、オンナは軽くお辞儀をしながら行った。案外、礼儀正しい。青い城には行くことはなさそうだが、いい店なのかもしれないな。と、アライは思った。
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 生ビールを、と鳥正の女将に注文する。
「いつもの?」と、女将が云うと
「腹が減ってるんだ」と、アライが云った。
「じゃぁ、精のつくものね」
 女将がいなくなると、アライは手帳に挟んだ手紙の封を開けた。住所のないオクムラからの手紙だ。手紙と一緒に鍵がひとつ入っていた。
『すまない。新宿西口にあるコインロッカーの荷物を預かって欲しい。必ず、取りに行くから』
 手紙にはそう書かれていた。10万円の小切手と一緒に・・・
 ポルシェの鍵の次は、コインロッカーの鍵か、俺はホテルのフロントじゃないんだがな。と、アライは思った。
 肉豆腐と焼き鳥が来た。アライはビールを飲んで、肉豆腐に七味をたっぷりかけた。辛くて旨い。
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「オンナからの手紙じゃなさそうだな」
 白い帽子を被ったサングラスのオトコがアライの横に座った。もう一人は、腕に入れ墨をした青白い顔をした若い男だ。サングラスの横に黙って立っている。
「人違いだろう」と、アライが云った。
 サングラスがタバコをくわえると、入れ墨が両手でライターを持って火をつけた。その筋の人たちらしい。
 入れ墨がアライから手紙を奪って、サングラスに渡した。
「住所はなし。ほう、10万か、鍵は貰っとく」
 そう云うと、サングラスは小切手と鍵をジャケットのポケットに入れた。
「オクムラのことに首を突っ込むな」と、サングラスが云った。
 入れ墨が、ビールをひとつ注文した。サングラスのだろう。
「一杯飲んだら。一緒に来て貰おうか」と、サングラスが云った。
「ごめんだね」と、アライが云うと
「なんだと、この野郎!」と、入れ墨が凄んだ。
 入れ墨がジャケットのポケットから、ナイフをチラッと見せた。脅しだと思ったが、何かの弾みで刺されてもつまらない。喧嘩など、活きのいいやつがするもんだ。ビールが来た。サングラスがビールを一気に飲むと、
「どうするよ」と、云った。
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「分かった」と、仕方なくアライは云った。
 ビールを飲み干し、アライはレジで勘定を払った。と、同時に、スルリとふたりを避け、店から走り出た。入れ墨がアライのベルトを掴もうとした瞬間だ。拘束されたら、逃げられない。
 大通りから、暗い細い道を走り抜けた。心臓がバクバクとしていた。どこを走っているのか分からなかった。入れ墨が、追いかけてくる足音が聞こえる。どこまでも追いかけてくる気がした。次第に息が切れてくる。限界だった。
 どこでもいい。隠れないと・・・。

 店の扉を開けた。
「あら、来てくれたのね」
 薄暗い店の奥からオンナの声がした。
 花柄のボディコンを着たレイコだった。とすると、ここは青い城らしい。
「お友だちもご一緒?」
「お友だちは、帰ったよ。たぶん」
 息を整えながら云うとアライは、ポケットから鍵を出した。サングラスに渡したのは、原付のスペアキーだ。
 鍵を手のひらで転がしながら、
「ほら、面倒なことに巻き込まれてるじゃないか」と、アライは呟いた。
<取材 アラピー@キャンプ命 記事 紙本櫻士@コピーライター>
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ニュー鳥正
住所 東京都墨田区両国3ー24ー6
電話 03ー3631ー5984
交通 JR両国駅より徒歩2分
定休日 日曜日
二千円とちょいでした。
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「ええ体してるやん。せんべろ隊に入らへんか?」
年齢・経験不問。お酒が飲めなくても安心して活動できます。
【全国で活躍するせんべろ隊員たち】
大阪せんべろ隊長 紙本櫻士@コピーライター
      隊員 サナエ@元女優 みーやん@ギタリスト エマ@野菜ソムリエ c@ab
         かおりん@シャンボール ハラタク@じもてぃ ホソカネーゼ@らふぃね Ito@おけいはん
東京せんべろ隊長 にしやん@上々颱風
      隊員 ひろみ@デザイナー
下町せんべろ隊長 ジュンイチ@八木商店
      隊員 アラピー@キャンプ命
掛川せんべろ隊長 川人拓也@伝える人
会津せんべろ隊長 吉川@ジュニエコ100開催地だ!
浦和せんべろ隊長 かおりん@もつ命
      隊員 サヨコ@ピアノ命 まゆゆ@ピンク命 弓子@キャベツ千切り
全米せんべろ隊長 としゆき@カマス・ワシントン
盛岡せんべろ隊長 アキ@盛岡美人
土佐せんべろ隊長 エツコ@パラダイス

※行け! って感じのせんべろモデルはmaiちゃんです。感謝!!!
撮影 田原慎一

錦糸町『す吾六』(東京)現ナマの詰まった鞄。

オクムラ・カオリ。11758773_898252700267262_7106528_n

 オクムラが事務所に来た。
 ポルシェのキーを預かってくれと云う。クルマを見に行くと、
 1970年代の古い911カレラだった。イエローのカブリオレで、走行距離は不明だったがピカピカに磨き上げられている。助手席にはヴィトンの旅行鞄がひとつ。中に、現ナマが詰まっている、とオクムラは隠すこともなくアライに云った。
「どうせ、使えない金なんだ。とにかく車ごと預かってくれ」と、アライは云った。
「俺は、質屋でもクルマ屋でもない」
「盗まれるのが心配なのなら・・・」
「それは、あんたの問題だ」と、アライは云った。
 結局、アライはオクムラのクルマと鞄を預かることになった。
「飲みに行こう」と、オクムラが肩の荷が下りたような顔をして云った。
 アライに肩の荷が移った分けだ。
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「立ち飲み屋じゃないんだな」
 錦糸町にある『す吾六』に入ると、オクムラが残念そうに云った。
「これでも、俺には高級店なんだ」と、アライが云った。
 アライは小さな和室を取った。オクムラが話しやすいだろうと思ったからだ。
 オクムラは、せんべろ屋で飲むことをすっかり気に入っていた。誰とも分からない客と馬鹿話をするのが面白いらしい。最初は水戸黄門が、身分を隠して庶民の暮らしを楽しんでいるのかと思ったけど、オクムラは心底楽しんでいるように見えた。
 生ビールと、秋刀魚の刺し身と松茸の土瓶蒸しを頼んだ。どれも安くて旨い。
 
『す吾六』は、オクムラにとっては十分せんべろ屋だろう。
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「しばらく、姿を消すよ。あてもあるんだ」と、オクムラが云った。
「詮索はしない」
 アライは、ハイライトに火をつけて云った。
「珈琲缶の中に、金を20万ほど入れておいた」と、オクムラが切り出した。
「余計なことだ」
 土瓶蒸しが来た。お猪口に注ぐと、松茸のよい香りが漂った。冷酒を二合ほど注文した。
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「今、俺は、分不相応なくらいの金を持ってる。使い切れない程ね。気にしないでくれ」と、オクムラは云った。
「好きにするさ」
 アライは諦めてそう云うと、残ったビールを飲み干した。
「奥さんとは離婚したんだ」と、オクムラは云った。
 秋刀魚の刺し身と冷酒が運ばれてきた。アライは、オクムラに酒を注ぎ、オクムラの返杯を受けた。
「旗の台の『鳥樹』で、あんたをほったらかしにした女かい?」と、アライが訊いた。
「これで、俺は大金持ちの仲間じゃなくなるってわけだ」と、オクムラが云った。
「いまでも、十分だろう」と、アライが云った。
 オクムラはしばらく黙って、何かを考えているようだった。
 そしていつものように、指でカタカタとリズムと取っていた。
「タバコを一本くれないか」と、オクムラが云った。
 火をつけ、オクムラは深くタバコを吸った。久しぶりのタバコのようだ。
 好きにするさ、とアライは思った。
 それが、オクムラと会った最後の夜になった。
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 電話が鳴った。
 月曜の朝で、時計の針は九時を指していた。
 丁度、キッチンで目覚ましの熱いコーヒーを入れようとしていた時だった。
「オクムラ・カオリと云います」
 聞き覚えのある女の声だ。
「アライです」
「覚えていらっしゃいます? 旗の台で会った」
「もちろん覚えていますよ」
「親切にオクムラを家まで送り届けていただいて感謝してます。大変だったでしょう? 野良犬のような酔っ払いで、いつものことなんですの」
「ご用件は?」
「私たちは、もう、結婚してません。ご存じでしょうか?」
「ええ、今頃、彼はどこかで羽を伸ばしているんじゃないかな」
「アライさんは探偵だと主人から訊きました。もと、主人ですけど」
「保険の調査員です」
「依頼すれば、大抵のことはやってくれると」
「そういうこともあります」
「オクムラの居場所を探して欲しいと思います。どうせ、薄汚い格好でどこかで飲んだくれているに違いないんですけど、面倒なことになる前に、見つけ出したいの」

「私は、あなたの依頼を受けませんよ」
「あら、なぜかしら?」
「オクムラとは友人だし、彼は大人だ。余計なことはしたくないと思っている」
「いずれ、依頼を受けていただくことになるわ。私には分かるの」
 電話が切れた。
 もはや、面倒なことに巻き込まている。アライはそう思いながら受話器を戻し、コーヒーを入れにキッチンに戻った。
<取材 アラピー@キャンプ命 記事 紙本櫻士@コピーライター>
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す吾六(すごろく)
住所 東京都墨田区緑4ー9ー1
電話 03ー3632ー3232
交通 JR総武線錦糸町駅より徒歩8分
営業 11時30分から13時 17時から23時(月・火・木・金)
   17時から23時(土・日)
定休日 水曜日
ひとり3千円くらいでした。
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「ええ体してるやん。せんべろ隊に入らへんか?」
年齢・経験不問。お酒が飲めなくても安心して活動できます。
【全国で活躍するせんべろ隊員たち】
大阪せんべろ隊長 紙本櫻士@コピーライター
      隊員 サナエ@元女優 みーやん@ギタリスト エマ@野菜ソムリエ c@ab
         かおりん@シャンボール ハラタク@じもてぃ ホソカネーゼ@らふぃね
東京せんべろ隊長 にしやん@上々颱風
      隊員 ひろみ@デザイナー
下町せんべろ隊長 ジュンイチ@八木商店
      隊員 アラピー@キャンプ命
掛川せんべろ隊長 川人拓也@伝える人
会津せんべろ隊長 吉川@ジュニエコ100開催地だ!
浦和せんべろ隊長 かおりん@もつ命
      隊員 サヨコ@ピアノ命 まゆゆ@ピンク命 弓子@キャベツ千切り
全米せんべろ隊長 としゆき@カマス・ワシントン
盛岡せんべろ隊長 アキ@盛岡美人
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撮影 田原慎一

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