酩酊していた。
「焼くのに10分くらいかかるで」
「飲んで待ってる」と、僕が云うと
おばちゃんは、クルクルとたこ焼きを回し始めた。
おばちゃんの手元をぼんやりと眺め、僕はビールを飲んでいた。
「ビールだけでもええか?」
ジャージを着た中年のオジサンがふらりと来店した。裸足にサンダルだ。
するとおばちゃんは、不機嫌そうにビールを注ぐとオジサンに手渡した。常連なのか、通りすがりかは分からない。おじさんは僕の隣で、美味しそうにビールをチビチビ飲んでいた。
僕のたこ焼きが出来上がり、おばちゃんが僕に手渡してくれる。
青のりのかかったソースたこ焼きだ。
僕は、熱々のたこ焼きを爪楊枝で食べた。青のりとソースの香りがぷんとした。 そうだ、高校生の時、近所の神社で食べたたこ焼きだ。
あの時と、同じ味だった。
「今から、桜井さんの家に行かへんか」と、原田が云った。
中間テストが終わった、高2の秋のことだ。
原田は同じクラスで、帰宅方向が同じだった。テストも終わり、みんなほっとした顔でぞろぞろと下校している。僕と原田は、自転車に乗って校門から伸びる坂をゆっくりと下っていた。
桜井さんは、クラスで一番可愛い女の子だった。
「行ってどうするねん」
「呼び出して話しするやろ。オマエが」
「なんで俺やねん。原田が好きやって云ってる娘やろ」
「テスト終わって、気がするんでる今がチャンスや」
「なんのチャンスだ。ひとりで行ってこいよ」
「オマエ、そんなこと云うてると友だちなくすで。頼むから、な、な」
ひとりでは、会いに行けないと、不機嫌になってくる始末だ。
押しの強い原田に負けて、結局、僕はついて行くことになった。
「桜井の家なんて、知らんで」と僕が云うと、
「調べてあるんねん、ついて来い」と、原田が元気よく云った。
ならひとりで行けよ。と思う。
桜井さんの家は、旧街道にある古い家だった。僕が近くの神社に、彼女を呼び出すことになった。もう、ここまで来ればなんでもするよ。
チャイムを鳴らす。いなければいいのにと思いながらだ。
「どうしたの?」
いた。制服のスカートにブルーのセーターを着ていた。
「原田と遊びに来たんだ。神社で原田が待ってるから来てくれよ」
間抜けだなぁ、と思いながらそう云うと「待ってて」と、彼女は云った。
僕は神社に戻った。
「どうやった? おった?」
「来るって」
原田は急にそわそわしだし、神社にあった錆びだらけの滑り台に上って、ずるずると降りた。僕は、ブランコに座る。なんで僕がいるんだ。とか、思いながら。
着替えてきたらしい。
桜井さんは、白いシャツとミニスカートをはいていた。
「こいつ、桜井のことが好きやねんで」と、突然、原田が滑り台の上から叫んだ。
ヒューヒューと云いながらだ。原田の顔が赤くなっていた。人前であがると原田は顔が赤くなるのだ。
馬鹿なのか? と、思ったけど「いや、原田が」とか、僕はもごもごと桜井さんに云っていた。どうすりゃいいんだ。こう云うお馬鹿は。ドン! と云いたい。
何を話していいのか分からなかった。
僕が黙っていると、
「たこ焼きを食べよう」と原田が云った。
神社の境内に小さなたこ焼き屋があった。そこで食べようと云うのだ。
「ここ旨いねん」
「なんで、美味しいって知ってるの?」と、桜井さんが原田に訊いた。
「何度か食べたことあるから」
何度も来てるんだ・・・。
「たこ焼きセットください」
若いカップルの男の子が注文した。お揃いのキャリーバッグを持っている。おそらく旅行者だろう。
「今から焼くから15分くらいかかるで」と、シオヤのおばちゃんが云った。
「ビールもういっぱい」と、サンダルのオジサンがお代わりをした。
僕は、たこ焼きをひとつ、食べた。やはりあの時と同じ味だった。
あの後、僕たちはどうしたんだろう。神社にあった狛犬を照らす夕日をなぜかよく覚えていた。
ずいぶん後になって、あの時の神社に行ったことがあった。たこ焼きを食べようと思ったが、もう、店はなくなっていた。
僕は、ずいぶん変わったのかもしれない。残りのビールを飲み干し、僕はカウンターを離れた。原田と桜井も、変わっているんだろう。なぜか、同じ味のたこ焼きが梅田にあるのが、不思議に思うよ。
<記事 大阪せんべろ隊長 紙本櫻士@コピーライター>
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
たこ焼き シオヤ
住所 大阪府大阪市北区角田町9−25 新梅田食堂街1F
電話 06ー6313ー2714
交通 阪急梅田駅、JR大阪駅、大阪市営地下鉄御堂筋線梅田駅から徒歩2分
営業 15時から23時
定休日 日曜日
500円くらい。せんべろです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ええ体してるやん。せんべろ隊に入らへんか?」
年齢・経験不問。お酒が飲めなくても安心して活動できます。
【全国で活躍するせんべろ隊員たち】
大阪せんべろ隊長 紙本櫻士@コピーライター
隊員 サナエ@女優 みーやん@ギタリスト エマ@野菜ソムリエ c@ab なるみ@おかえり
かおりん@シャンボール ハラタク@じもてぃ ホソカネーゼ@らふぃね
沙也加@すくもー 乾@八尾YEG トモコ@吹田YEG もーちゃん@トラベラー
東京せんべろ隊長 にしやん@上々颱風
隊員 ひろみ@デザイナー ナホ@バイオリニスト
下町せんべろ隊長 ジュンイチ@八木商店
隊員 アラピー@キャンプ命
土浦せんべろ隊長 ススム@ミック
掛川せんべろ隊長 川人拓也@伝える人
会津せんべろ隊長 吉川@ジュニエコ100開催地だ! ユウシ@会津YEG
浦和せんべろ隊長 かおりん@もつ命
隊員 サヨコ@ピアノ命 まゆゆ@ピンク命 弓子@キャベツ千切り
全米せんべろ隊長 としゆき@カマス・ワシントン
盛岡せんべろ隊長 アキ@盛岡美人
土佐せんべろ隊長 エツコ@パラダイス
※行け! って感じのせんべろモデルはmaiちゃんです。感謝!!!
撮影 田原慎一
「焼くのに10分くらいかかるで」
「飲んで待ってる」と、僕が云うと
おばちゃんは、クルクルとたこ焼きを回し始めた。
おばちゃんの手元をぼんやりと眺め、僕はビールを飲んでいた。
「ビールだけでもええか?」
ジャージを着た中年のオジサンがふらりと来店した。裸足にサンダルだ。
するとおばちゃんは、不機嫌そうにビールを注ぐとオジサンに手渡した。常連なのか、通りすがりかは分からない。おじさんは僕の隣で、美味しそうにビールをチビチビ飲んでいた。
僕のたこ焼きが出来上がり、おばちゃんが僕に手渡してくれる。
青のりのかかったソースたこ焼きだ。
僕は、熱々のたこ焼きを爪楊枝で食べた。青のりとソースの香りがぷんとした。 そうだ、高校生の時、近所の神社で食べたたこ焼きだ。
あの時と、同じ味だった。
「今から、桜井さんの家に行かへんか」と、原田が云った。
中間テストが終わった、高2の秋のことだ。
原田は同じクラスで、帰宅方向が同じだった。テストも終わり、みんなほっとした顔でぞろぞろと下校している。僕と原田は、自転車に乗って校門から伸びる坂をゆっくりと下っていた。
桜井さんは、クラスで一番可愛い女の子だった。
「行ってどうするねん」
「呼び出して話しするやろ。オマエが」
「なんで俺やねん。原田が好きやって云ってる娘やろ」
「テスト終わって、気がするんでる今がチャンスや」
「なんのチャンスだ。ひとりで行ってこいよ」
「オマエ、そんなこと云うてると友だちなくすで。頼むから、な、な」
ひとりでは、会いに行けないと、不機嫌になってくる始末だ。
押しの強い原田に負けて、結局、僕はついて行くことになった。
「桜井の家なんて、知らんで」と僕が云うと、
「調べてあるんねん、ついて来い」と、原田が元気よく云った。
ならひとりで行けよ。と思う。
桜井さんの家は、旧街道にある古い家だった。僕が近くの神社に、彼女を呼び出すことになった。もう、ここまで来ればなんでもするよ。
チャイムを鳴らす。いなければいいのにと思いながらだ。
「どうしたの?」
いた。制服のスカートにブルーのセーターを着ていた。
「原田と遊びに来たんだ。神社で原田が待ってるから来てくれよ」
間抜けだなぁ、と思いながらそう云うと「待ってて」と、彼女は云った。
僕は神社に戻った。
「どうやった? おった?」
「来るって」
原田は急にそわそわしだし、神社にあった錆びだらけの滑り台に上って、ずるずると降りた。僕は、ブランコに座る。なんで僕がいるんだ。とか、思いながら。
着替えてきたらしい。
桜井さんは、白いシャツとミニスカートをはいていた。
「こいつ、桜井のことが好きやねんで」と、突然、原田が滑り台の上から叫んだ。
ヒューヒューと云いながらだ。原田の顔が赤くなっていた。人前であがると原田は顔が赤くなるのだ。
馬鹿なのか? と、思ったけど「いや、原田が」とか、僕はもごもごと桜井さんに云っていた。どうすりゃいいんだ。こう云うお馬鹿は。ドン! と云いたい。
何を話していいのか分からなかった。
僕が黙っていると、
「たこ焼きを食べよう」と原田が云った。
神社の境内に小さなたこ焼き屋があった。そこで食べようと云うのだ。
「ここ旨いねん」
「なんで、美味しいって知ってるの?」と、桜井さんが原田に訊いた。
「何度か食べたことあるから」
何度も来てるんだ・・・。
「たこ焼きセットください」
若いカップルの男の子が注文した。お揃いのキャリーバッグを持っている。おそらく旅行者だろう。
「今から焼くから15分くらいかかるで」と、シオヤのおばちゃんが云った。
「ビールもういっぱい」と、サンダルのオジサンがお代わりをした。
僕は、たこ焼きをひとつ、食べた。やはりあの時と同じ味だった。
あの後、僕たちはどうしたんだろう。神社にあった狛犬を照らす夕日をなぜかよく覚えていた。
ずいぶん後になって、あの時の神社に行ったことがあった。たこ焼きを食べようと思ったが、もう、店はなくなっていた。
僕は、ずいぶん変わったのかもしれない。残りのビールを飲み干し、僕はカウンターを離れた。原田と桜井も、変わっているんだろう。なぜか、同じ味のたこ焼きが梅田にあるのが、不思議に思うよ。
<記事 大阪せんべろ隊長 紙本櫻士@コピーライター>
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たこ焼き シオヤ
住所 大阪府大阪市北区角田町9−25 新梅田食堂街1F
電話 06ー6313ー2714
交通 阪急梅田駅、JR大阪駅、大阪市営地下鉄御堂筋線梅田駅から徒歩2分
営業 15時から23時
定休日 日曜日
500円くらい。せんべろです。
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「ええ体してるやん。せんべろ隊に入らへんか?」
年齢・経験不問。お酒が飲めなくても安心して活動できます。
【全国で活躍するせんべろ隊員たち】
大阪せんべろ隊長 紙本櫻士@コピーライター
隊員 サナエ@女優 みーやん@ギタリスト エマ@野菜ソムリエ c@ab なるみ@おかえり
かおりん@シャンボール ハラタク@じもてぃ ホソカネーゼ@らふぃね
沙也加@すくもー 乾@八尾YEG トモコ@吹田YEG もーちゃん@トラベラー
東京せんべろ隊長 にしやん@上々颱風
隊員 ひろみ@デザイナー ナホ@バイオリニスト
下町せんべろ隊長 ジュンイチ@八木商店
隊員 アラピー@キャンプ命
土浦せんべろ隊長 ススム@ミック
掛川せんべろ隊長 川人拓也@伝える人
会津せんべろ隊長 吉川@ジュニエコ100開催地だ! ユウシ@会津YEG
浦和せんべろ隊長 かおりん@もつ命
隊員 サヨコ@ピアノ命 まゆゆ@ピンク命 弓子@キャベツ千切り
全米せんべろ隊長 としゆき@カマス・ワシントン
盛岡せんべろ隊長 アキ@盛岡美人
土佐せんべろ隊長 エツコ@パラダイス
※行け! って感じのせんべろモデルはmaiちゃんです。感謝!!!
撮影 田原慎一